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スギ花粉症の注射療法について
2007.03.07

 この治療法は徐放性ステロイド注射といい、一般名トリアムシノロンアセトニド ( 商品名:筋注用ケナコルト-A 、)が主に用いられています。実施する医師は、スギ・ヒノキ科花粉症の期間に受診した患者に対して、第一選択として成人1 回40mgを臀筋内注射する ことになっており、1回の注射で1~数週間効果が持続し、この注射を1シーズンに1~数回おこなうようです。
トリアムシノロンアセトニドは、本邦で使用されるステロイド剤のなかでは、もっとも強力なものの一つです。ステロイド剤の力価比によると、筋注40mg1管は、臨床上良く用いられるプレドニゾロンに換算すると、250mg に相当し、非常に高用量です。また、他のステロイド剤に比較して、トリアムシノロンアセトニドの血漿半減期は、きわめて長く約5日で、その後も14日から21日までは、ほぼ平坦な血漿濃度が持続します。このように注射した総量が長期にわたって徐放されるため、本来副腎機能不全症をはじめとして自己免疫疾患・ネフローゼ症候群などの長期ステロイド療法の維持・離脱に使用されます。
トリアムシノロンアセトニドの副作用出現率は約15%で、主な副作用は満月様顔貌4.0%、 座創などの皮膚・皮膚付属器障害3.9%、月経異常を主とする女性生殖障害3.9%などです。月経異常などをはじめとする女性生殖器への副作用は、月経周期上の投与時期により差異がありもっとも強く影響がでるのは、黄体期初期すなわち排卵後1~3 日といい、本法一回で、全例に排卵阻止が確認されておりまた、投与時期の月経周期を問わず、その後の数月経周期まで変調をきたします。内因性ステロイド(自分の体で作られるステロイドホルモン)産生の指標となる血中コルチゾルは、本法で直ちに抑制され、ほぼゼロに近い値が14日後までつづきます。外因性ステロイドによって、副腎皮質機能が強力に抑制されるということです。
本邦では、スギ・ヒノキ科花粉症治療に対する徐放性ステロイド注射の優位性を論じた原著論文はありません。なお、鼻アレルギー治療ガイドラインには、徐放性ステロイド注射は副作用がおきるため望ましくないとはっきりと記載しています。スギ・ヒノキ科花粉症の重症例に全身性ステロイド療法が必要なときは、まず経口投与を先行するべきで、その上で経口ステロイド無効例に、慎重に本法を考慮すべきものなのです。すなわち、本法は第一選択治療ではなく他のすべてのアレルギー治療を行った後の最後に位置づけられ、非常に限られた症例となります。患者さんの求めに安易に応じて、第一選択の治療として画一的・傾向的に行われるものでは決してありません。一方花粉症の重症例に対して短期間の全身性ステロ イド療法は有用です。安全かつ効果的に行うために、基本理念として、生命予後にかかわらない花粉症治療に対しては、絶対的な効果より副作用回避を優先さます。 したがって、内服が原則であり、適応とともに 薬剤量・使用期間を考慮します。花粉症の重症例では症状寛解まで数日の使用が必要となることも多く常用量2~3 日投与後に減量、中止します。
徐放性ステロイド注射は、1回筋注の本法でプレドニゾロン内服250mg相当と高用量です。3週間にわたって効果が持続するとして試算すると、プレドニゾロン換算の一日量は12mg です。この量は抗アレルギー作用のためには過ぎる量であり、注射後ただちに症状がほぼ完全に消失するのは当然なのです。個人差や花粉量による症状の変動が大きいスギ・ヒノキ科花粉症に、短期間の内服ステロイド療法を確かめる前に、画一的に徐放性ステロイド注射を行うのは好ましくないのは明らかでさらに、注射した総量が長期にわたって徐放されるため、体内から回収することは不可能で経口投与の減量のようには、すみやかに体外に排泄されません。
本邦でも世界でも、花粉症の標準的な治療は抗ヒスタミン剤や局所ステロイド剤から開始します。 段階的な治療では、重症例に経口ステロイド療法を行うことがあります。徐放性ステロイド注射が必要となるとすれば、これらの治療が奏功しない例に対して、厳格な適応で行うものです。
ちなみに、最近では日本医大で口に含んで減感作療法を行う治験が進行中であるのと4年以内に開発することを目標とした花粉症のワクチンなどの新しい試みがあるようです。これらの治療法が一般に普及してくれば、現在のように安易に徐放性ステロイド注射を希望する患者と、それに応えてしまう医師が少なくなっていくのではと期待しています。

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